2016年5月31日火曜日

夜の海

静寂がしっくりと身体に馴染む夜

膨らんでいく頭の中で
身体のない子どもを抱く

子宮の奥の海底に
置き去りにされた一粒

誰も知らない

誰にも見えない

白砂に混じったその一粒を

ただまっすぐに 見ている

女は身体に海をもつ
暗く 深く 透き通った その青
寄せて返す波の音



―――もう 聴こえない――-


 
女は 待っている
あの日干上がってしまった海に
ふたたび潮の満ちるのを
いつか
この身体ごと
波がさらってくれるのを

ただ

じっと

待っている

2016年4月6日水曜日

さよなら。

悲しいお別れをしてきた。

4月1日。

痛みと引き換えに、なくしたもの。

もう戻ってこないもの。いのち。

身体から水分という水分がぜんぶなくなったら
もう泣かなくてすむんじゃないかと思ったけど
私はやっぱり泣いている。

きっとこの先も。

髪をばっさり切った。

忘れるんじゃなくて、
悲しいこと、それごと全部持って
それでも歩いていくために。生きていくために。

4月1日。

うそを吐くかわりに、ひっそり祈ろう。

2016年3月16日水曜日

いちばんちかくて、一番遠い。

3月に、冬の最後の主張に、コートの襟を立てる

またひとつ歳を重ねて
何かが劇的に変わるかといえばそうでもない

日常

それでもこうして呼吸をつないでいること

その ちいさな 個人的な奇跡

私の中で 心臓が 動いている

どくどくと 生々しい音を立てて

内側から私の内臓を蹴り上げる

途端に込み上げる吐き気で 私は私の生を知る


鋭い歌声が 耳の奥に深く突き刺さる


その一歩は鉛のように重いが
私の目は明日を向いている

2016年2月10日水曜日

ゆめ



夢を見て、真夜中に目が覚めた。

あふれ出したダムだか川だかに放り出される私 ゆらゆら と
ただよっていたら前方に
それはそれは大きなワニ
が、いて

ワニの目は透き通った水晶球で
どこを見ているのかわからないけど
確実に私がいることを捉えていて
大きく口を開けた
ぬらぬらと動く赤 象牙のような歯が並ぶ
怖くて怖くて
私は流れに逆らって必死に泳いだ

しばらく泳ぐと海に出た
瞬間、力が抜けて、沈んでいった
ああもうだめだ、死ぬんだな、海はきれいだな、ワニがいなくて安心で

でも、もう死ぬんだな

そんなことを思っていたら、目の前ににゅっと手が伸びてきて

私の手を取ってぐいっと上へ引っ張り上げた




急激な浮力を感じながら目が覚めた


あの手は、だれの


時計を見れば426分で、濃い闇の中、指だけで隣眠る顔をなぞった

2015年11月12日木曜日

無題

こころをやわらかくしたい

思う

やわらかく、しなやかに

なんにでもさわって、口に入れようとするその幼い好奇心を
どうかころさないでほしい
くだらない大人の安全観で

光る画面に指を滑らせれば
なんでも見ることができるけど
なんにも手に入れてないことを

私たちはいつ、知るだろう

2015年11月10日火曜日

め。

自分にない何かを求めるんじゃなく、

自分の中にすでにあるものを大切に育てていこうとふと、思った。

私の中に眠る私。

自分自身に

生きることに

ずっとずっと、敏感でありたい。

2015年10月22日木曜日

日々

ありのままの自分でいること



みな強く固執しているように思う


人の行き交う交差点に立つ
スニーカー、サンダル、ハイヒール、ドクターマーチン、裸足―――
無数の足音
押し寄せては、遠のいていく

そのほとんどすべてが

知らない人だ

今までも、たぶんこれからも

ありのままの私を

私はよくわからない

ただ、今を生きている一呼吸一呼吸が

私であるのを感じる